デジタルインボイスとは何か?PDFの請求書との違いは?

デジタルインボイス推進協議会(旧称:電子インボイス推進協議会、略称:"EIPA")のリリースにあるように、日本ではPEPPOLのような電子的な請求書を「デジタルインボイス」と呼ぶことになりました。

電子インボイスというと、PDFも電子ファイルじゃないか、という誤解をされやすいため、「デジタルインボイス」という名称は、日本におけるPEPPOLの普及のために必要ですね。

今回は、実際にこのデジタルインボイスとは何なのか、PDFでやり取りする請求書とは何が違うのか、請求書を送受信するユーザーにとってどんなメリットがあるのかを考えてみたいと思います。

目次

  1. デジタルインボイスとは
  2. 非構造的な請求データと構造化された請求データ
  3. PDF請求書のメリットデメリット
  4. 請求データを構造化・標準化するのはなぜか?
  5. PEPPOLは標準化されたデジタルインボイス
  6. 標準化されたXMLであることのメリット


1.デジタルインボイスとは

まず初めにデジタルインボイスとは何かを明確にしてみましょう。

EIPAのウェブサイトには、以下の様な記載があります。

📃
EIPAは、日本におけるデジタルインボイス(標準化され構造化された電子インボイス)の利活用・普及を通じ

デジタルインボイスを定義づけるならば、

標準化されかつ構造化されたデータとしての請求書

ということができそうです。

つまりPDFファイルで授受される請求書は通常は標準化も構造化もされていませんので、デジタルインボイスではありません。

2.非構造的な請求データと構造化された請求データ

この『標準化・構造化』という要素が、デジタルインボイスのメリット・利便性の基礎となっています。まずデジタルインボイスの『標準化・構造化』という側面について少し触れてみます。

請求書には、日付、金額、単価、税率、税額、税抜・税込金額、支払期日等々、様々な情報が含まれています。紙やPDFで生成される請求書ではこれらの情報の記載場所や順序は、発行者によってバラバラですよね。
人間が読みやすい(Human readable)ように、自由に作成、表示されています。

これに対し、順序や記述方法、データ形式など、所定の定義やルールによって構造手的に表現したものを『構造化された請求データ』ということができます。これは自動化処理などプログラムに処理させることを想定しており(Machine readable)、必ずしも人間が直接パッと見てわかりやすいものではないことも多くあります。CSVのデータをテキストファイルで開いたら何が何だかわからないですよね。

わかりやすさのために極端な例を挙げると、

  • 非構造化請求データ
    ワードファイルや『神エクセル』『エクセル方眼紙』で作成され印刷された請求書

  • 構造化請求データ
    エクセルの列に請求書の項目、行に各請求書の情報を記録したもの

ということもできます。

ただし、エクセルやCSV形式で構造化すればデジタルインボイスとして十分かというと必ずしもそうではありません。

3.PDF請求書のメリットデメリット

電子データでやり取りする非構造化データの請求書としては、PDFが最も一般的です。他にもワードファイルで送受信されている事例もあります。このPDFによる請求書のメリットデメリットにはどんなものがあるでしょうか。

メリット:

  • ほとんどすべての人が、電子デバイス上でPDF閲覧ソフトによって見ることができる。
  • 人間が読みやすい(一覧性や視認性・可読性)。
  • 紙に印刷しやすい。
  • メールで手軽にやり取りできる。

デメリット:

  • 機械やプログラムによってデータ化することが容易ではない。
  • 異なるシステムやソフトウェア間でのデータの授受が難しい
  • 大量に同時に処理することが通常困難

近年ではAI-OCRなどの技術向上によってPDFからデータを正確に抽出することはある程度はできるようになってきています。

しかし、発行者側においてERPや販売管理システムなどから請求基礎データをPDFに変換し、さらに受取側においてPDFから手入力やOCRによって再度データ化する、という処理があり、仮にこれらを専用ツールやサービス、又はRPAなどによって自動化するにしてもそのためのコストは決して安くはないかもしれません。


4.請求データを構造化・標準化するのはなぜか?

構造化データというと、エクセルやRDB(リレーショナルデータベース)をイメージすることが一般的かもしれませんが、デジタルインボイスをひとつのRDBのみで送受信することは現実的ではありません。なぜなら、発行者側で請求書の作成に使われるシステム、受領側のシステム、それらに使われているデータベースやデータの定義などは一様ではないからです。

しかし、企業間・異なるシステム間でも請求データの発行と受領をシステム同士で直接的にデータを授受できるとしたらどうでしょうか。PDFという形態で情報を受け渡しする必要がなくなり、受取側でデータ変換する手間も削減することができます。

請求データを構造化・標準化する目的は、

企業間や異なるシステム間でもデジタルなデータのまま請求情報を送受信できるようにするため

であると言えます。

上記で、エクセルによって表形式にできることを構造化の極端な事例として挙げましたが、正確にはそれだけでは不十分です。構造化、と言えるためには、その方法に明確な定義やルールがあること(≒標準化)が必要です。

5.PEPPOLは標準化されたデジタルインボイス

PEPPOLは、EUにおいて国をまたいで様々な事業者や異なるシステムから生成される取引情報をデジタルにやり取りするためにはどうしたらよいか、という背景から始まっており、XMLをベースとしたUBLという標準仕様をベースとしています。

XMLは一般的には「非構造化データ」に区分されます(準構造化データや、規則性のある非構造化データと呼ばれることもあるようです)が、PEPPOLで定義されている請求書等のフォーマットは、標準化という方法によって非構造化データであるXMLを構造化していると言え、これによって異なる主体やシステム間でも請求データなどの取引情報をやり取りすることを企図しているものなのです。

UBLは、OASISという標準化団体が策定しており、2004年に標準として採択されたものです。現行バージョンのUBL2.1は2013年に承認されたものです。PEPPOLはこれを標準として使うことを2014年に決定しました。

そして、UBLをベースに、Peppol BIS(Business Interoperability Specifications)というデジタルインボイス専用の文書仕様が策定され、各国でのデジタルインボイスフォーマットの基礎となっています。

現在は、そこからさらに進化した新たなデジタルインボイス仕様としてPINT(Peppol International Invoicing Model)というフォーマットが策定されています。日本でのPEPPOLのフォーマットはこのPINTがベースとなっています。

6.標準化されたXMLであることのメリット

UBLのように標準化・構造化されたXMLフォーマット、それを基礎としたデジタルインボイス仕様であるPEPPOL BIS / PINTを用いることは以下の様なメリットがあります。

(1) 可読性・互換性

XML自体が標準的なフォーマットであり、請求書という目的のために所定のルールで標準化された誰もが参照可能なUBLというフォーマットを用いているため、作成も受け取った後のデータの読み込みも、プログラムが容易に実行することができます。これによってデータの誤りや間違いといったリスクも大きく軽減され、特に受取後の各種の処理の自動化がしやすくなります。

(2) 柔軟性

特に固定長データとの対比で、データ項目のサイズに制限がないことがメリットとして挙げられます。固定長の場合は、このフィールドは何文字/何バイトまで、といった制限がありますが、XMLの場合は制限がなく作成の基礎となるデータをそのまま利用できるという柔軟性があります。

もちろん、UBLさえ使えば請求関連業務の非効率がすべて解決する、というものではありません。請求に関連する各種のフローやシステムがUBLやPEPPOLに対応していく必要がありますが、様々なシステムやサービスで対応がされてくると、エンドユーザーからもより直接的に利便性を感じることができるようになると考えられます。

最後に

請求データの構造化・標準化という視点から、PDF請求書とデジタルインボイスの特徴について考察してみました。

PEPPOLは唯一のデジタルインボイス、というわけではありませんが、PEPPOLが特徴的なのは、エンドユーザーの参加がオープンであって、誰しも共通のフォーマットでやり取りできるネットワークであるということです。

また、ネットワーク効果を持つ仕組みであるため、PEPPOLというデジタルインボイスを多くの事業者が利用することで、利用者の利便性が向上していくことが期待されています。

アクセスポイントの機能をエンドユーザー向けに提供することが期待されているソフトウェア事業者にとっては、早期にエンドユーザー向けの対応をしていくことは、後々大きなアドバンテージになる可能性を秘めていると言えます。

Storecoveでは、PEPPOLの普及拡大に資するべく、ソフトウェア事業者様やシステムインテグレーター様向けに、アクセスポイントAPIを提供しています。

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