Peppol IDについて語ります。概ね次の疑問に答える内容となります。
- Peppol IDとは何か?
- Peppol でドキュメントを送受信する際、IDをどのように用いるのか?
- Peppol IDを登録するにはどうすればよいのか? 誰に頼めばいいのか?
記事の想定読者
(1) Peppol でドキュメント(デジタルインボイス等)を送受信したい事業者
ドキュメント送受信の主体となる事業者(ドキュメント送受信サービスのエンドユーザー)は、Peppol IDを所有する必要があります。また、取引先にドキュメントを送るには、相手のPeppol IDを知っておかなければなりません。
(2) Peppol でドキュメント送受信サービスを開発したいエンジニア
開発者は、 Peppolを用いたサービスやアプリケーションを開発するにあたり、Peppol ID の運用ルールを理解しなければなりません。
はじめに
Peppol をご利用いただくにあたって、まずはPeppol ID について理解しなければなりません。
Peppol を Eメールで例えるなら、Peppol IDは「メールアドレス」に相当します。ドキュメント送信の「宛先」であり、同時にドキュメントの「送信元」であるといえます。当然Peppolは Eメールではありません。そういうふうに例えることで、Peppol 入門者の方もいくらか取っつき易くなるのです。
簡単なようでいて若干ややこしく、最初に「?」が頭をよぎるのがPeppol ID です。とはいえ複雑な話というわけでもありません。この「?」の部分を解消したいがため、この記事を執筆しました。
ここまで「Peppol ID」と記載していますが、より正確には「Peppol Participant Identifiers」です。ドキュメントの送受信の主体となる事業者(主に法人)を、Peppol のネットワークにて一意に特定するための識別番号となります。Participant の他にもいくつか呼び方が存在し、Recipient ID (受信者ID)、Sender ID (送信者ID)、Party ID (事業者 / 事業部ID)、Legal Entity ID (法人ID), Endpoint ID (宛先ID)などがあります。文脈や状況によってさまざまな名称で呼ばれるのですが、この記事では「Peppol ID」とだけ記載しています。
記事の後半では、Peppol の技術的な話題にも言及しますが、その詳細をすべてご理解いただく必要はありません。「こういうバックグラウンドがあるんだなぁ」くらいに心に留めていただければ十分です。Peppol についてさらに理解を深めたくなったとき、本記事を読み返していただくことで、初めて書いたことがお役に立てるのではないでしょうか。
ただ、2023年10月より開始予定の「インボイス制度」について、あらかじめご理解いただく必要があります。当然この記事を読むためだけに、本制度の詳細を把握していただきたいわけではありません。「適格請求書を送るには、適格請求書発行事業者登録番号を国税庁より取得しておく必要がある」という点を抑えていれば、ここではオーケーです。Peppolでも適格請求書の送信は可能であり、これを相手に受け取ってもらうためにこの番号が必要になるからです。また、この適格請求書発行事業者登録番号を、なんとPeppol IDとしてそのまま用いることができます。
繰り返しとなりますが、「難しくはないけれど、若干ややこしい」のが Peppol ID です。そのかわり一度理解していただければ、Peppol ネットワークの利便性を享受できるはず。Peppol IDは世界にひとつだけの番号で、これがあるからこそ日本のみならず海外の事業者とも、デジタルドキュメントの交換が行なえるのです。
Peppol IDとは何か?
Peppol によるデジタルドキュメントの送受信主体となる事業者の識別番号です。この事業者は主に法人となりますが、それに限るものではありません。個人事業主であっても専用の Peppol ID を持つことは可能です。
取引先にドキュメントを送信する際、相手先のIDが Peppolネットワークにおける「宛先」となります。Eメールで言うところの、取引先のメールアドレスです。反対にご自身のPeppol IDが、取引先の企業にとっての宛先となります。
また、受け取ったデジタルドキュメントに記されたPeppol IDを確認することで、それの送信者がいずれの取引先であるかを確認できます。Peppol ID はドキュメントの送り主を特定する手段であり、逆に自分で送信した時は、ドキュメント上で名乗る手段となります。
以下、Peppol ID が持つこれらの「役割」について詳しく説明します。
Peppol ID には3つの役割がある。
すなわち「宛先としての役割」、「法人格を名乗る手段としての役割」、「適格請求書発行事業者であることを示す役割」の3点です。
(1) 宛先としての役割
Peppol ID には、ドキュメントの送信先、すなわち宛先としての役割があります。
- あなたが相手にドキュメントを送る時は、宛先としてあらかじめ相手のIDを知っておく必要があります。
- あなたが相手からドキュメントを受け取りたい時は、あなたのIDを相手に知ってもらう必要があります。
(2) 法人格を名乗る手段としての役割
Peppol IDには「宛先としての役割がある」と述べましたが、法人として名乗る手段としての役割もあります。手紙であれば、記載した氏名(宛先の氏名、送り元としてのあなたの氏名)は、配達する者にとっては単なる宛先ですが、その手紙を書く人、読む人にとっては、相手の人格を確認する手段とも言えます。法人格としての IDとは、ご自身のことを名乗る手段であり、また取引相手を確認する手段なのです。
この役割におけるPeppol IDは、法人番号です。法人番号は、ご自身の法人格を示すための識別子であり、Peppol ID は 法人番号をそのまま用いるのが一般的です。
ただし個人や法人番号を番号取得していない事業者でも、法人格を示すためのIDを使えます。Peppol の仕様書やガイダンスノートには、ドキュメント送受信の主体をしばしば「Legal Entity」と呼称しています。これを素直に翻訳すると「法人」となるため、ここではそう記させていただきました。
(3) 適格請求書発行事業者であることを示す役割
インボイス制度の開始により、B2B取引を行う課税事業者は、適格請求書発行事業者登録番号の登録が事実上必須となります。Peppol でも、適格請求書を発行するのであれば、適格請求書発行事業者登録番号(以降、T登録番号)が必要となります。この登録番号もまた、「法人番号」と同様にPeppol ID として使用します。
なお適格請求書発行事業者登録番号は「登録番号」とよく省略されますが、本記事では他の単語と区別しやすいよう「T登録番号」としています。
2種類のID
Peppol ID には3つの役割があり、次のとおり2種類の番号体系が存在します。
- 法人番号を用いた Peppol ID
- 適格請求書発行事業者登録番号(T登録番号)を用いた Peppol ID
3つの役割のためにそれぞれ IDがあるのではなく、この2種類だけで3つの役割を担えます。「ID なのに2つ?」というのが腑に落ちないのですが、「まぁ、そんなもんだ」と思ってください。海外(主にヨーロッパ)でも、同様に2種類のIDを用いる国が多いようです。
加えて、ひとつの事業者が2つまでしか Peppol ID 持てないというわけでもありません。さらには、法人番号やT登録番号がなければ Peppol ID を持てないというわけでもありません。上記2種類のIDの他に、「3. その他」とも呼ぶべきIDが存在します。
GLN:法人番号を持たない事業者のPeppol ID
法人番号がなければ、Peppol が使えないというわけではありません。ではどうすればよいのかと言うと、GLN(Global Location Number)を取得していれば、これを Peppol IDとして利用できます。GLNとは、企業間取引において、組織や場所を世界的に唯一に識別できるGS1識別コードであり、Peppolでは、法人番号に代わる IDとして使用できます(T登録番号の代わりにはなりません)。
なお、これ以降はPeppol IDとして「GLN」ではなく「法人番号」等を採用することを前提に説明します。法人番号を持ってはいないが、Peppolの採用をご検討いただいている方は、以降に記載する「法人番号」を「GLN」に替えて読み進めてください。
完成したPeppol ID
以下は2種類の Peppol ID を簡易的に例示したものです。
- 0188:1234567890123
- 0221:T1234567890123
1234から始まる13桁の数字が法人番号であり、T及び後続の13桁の数字がT登録番号にあたります。数字は、実際の法人番号に置き換わります。多くの場合、双方13桁の数字部は同じ値となるはずです(法人がT登録番号を取得した場合、すでに所有している法人番号がそのまま割り当てられるため)。
「0118」という4桁の番号は、「日本の法人番号」であることを示すための識別子であり、これと実際の法人番号が組み合わさることで、世界で一つだけのPeppol ID となるのです。同様に「0221」は、日本の課税事業者の「T登録番号」であることを示しています。
Peppol ID は 2つ必要? 1つだけで良い?
結論を言えば、どちらか1つでオーケーです。例えば「課税事業者の法人」の場合、「法人番号」「T登録番号」どちらか1種類だけ用意すれば、Peppol を使用できます。また2種類のPeppol IDを同時に揃えることもできます。デジタルインボイスには、2種類のIDをともに記載することもできますし、どちらか一方だけでも送信することも可能なのです。
ただし企業の事業形態により、どちらのIDが「必須」になるのかは異なるので留意しておかなければなりません。次に、いずれの種類のPeppol ID が必要となるのか、事業の形態別に説明します。
ここでは、あなたがデジタルインボイスの「送信者」であるときに必要な Peppol ID について説明します。受信する際に必要となるID (あなたの取引先にとってのインボイスの宛先) は、いずれの種類でもよく、法人番号を所有しているならそれを受信時の宛先として使えばよいです。T番号でも同様に使えます。いずれも所有していない場合は、前述の通りGLNという代替手段があります。
さらには、あなたがドキュメントを送信したい取引先の企業、あるいは、あなたがドキュメントを受け取った時の送信元の企業のIDでもありません。あなたにとって、相手企業の ID は、法人番号、T登録番号どのような種類であってもかまいません。
必要となるPeppol ID
(1) 法人番号を持つ課税事業者
- 適格請求書のデジタルインボイスを送る: T登録番号
- 適格請求書ではないデジタルインボイスを送る: 法人番号
中小企業以上の規模の事業者は、概ねこの事業形態に当てはまるはずです。Peppolを使おうとしている企業の中では、一番多いのではないでしょうか。ここでは、課税事業者としてT登録番号を取得していることを前提にしています。
Peppolの使用目的も適格請求書としてデジタルインボイスを送ることが想定されます。よってT登録番号によるPeppol IDが必要となります。もしも、それ以外のインボイス(区分請求書等)を送信するのであれば、T登録番号ではない ID(法人番号)が必要となるので、この点を留意しておきましょう。
(2) 法人番号を持たない課税事業者
- 適格請求書をデジタルインボイスで送る: T登録番号
- 適格請求書ではないデジタルインボイスを送る: GLN等の代替ID
法人格を持たない事業者であり、かつ課税事業者である場合です。適格請求書を送るからには、T登録番号を取得しておく必要があります。
それ以外のインボイスを送るには、GLNなどの番号を取得しておく必要があります。GLNの取得・維持にも費用がかかるため、デジタルインボイスのためだけにこれを取得するのは、事業規模にもよるでしょうが、割に合わないかもしれません。
(3) 法人番号を持つ非課税事業者
- 適格請求書をデジタルインボイスで送ることはできない
- 適格請求書ではないデジタルインボイスを送る: 法人番号
法人番号の Peppol ID を用いて、適格請求書ではないデジタルインボイスを送ることができます。
(4) 法人番号を持たない非課税事業者
- 適格請求書をデジタルインボイスで送ることはできない
- 適格請求書ではないデジタルインボイスを送る: GLN等の代替ID
個人事業主などが想定されます。Peppol を使用するのであれば(適格請求書ではないデジタルインボイス)、GLNなどの番号を取得しておく必要があります。
要するに、適格請求書を送るだけであれば、T登録番号の Peppol ID だけでオーケーです。先程、Peppol IDは法人格として名乗る手段と言いました。T登録番号がその役割を担えるというわけではないのですが、結局のところT登録番号は法人(もしくは、それに準ずる事業者)ごとに割り当てられるため、これさえあれば法人番号の Peppol IDは無くても構わないとされています。
なぜこのような話をしているかと言うと、海外では事情が異なり、法人格を示す Peppol ID、課税事業者であることを示す別の Peppol ID の双方が同時に必須となる国があるからです。海外(現地法人)でのPeppol 使用を考えている方は、対象の国 Peppol ID 運用ルールを知る必要があるということです。
後半へ続きます。ここまでで「Peppol IDとは何か」、「Peppol でドキュメントを送受信する際、IDをどのように用いるのか」を解説しました。後半では、「Peppol IDを登録するにはどうすればよいのか」を説明します 。
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