記事の前編では、Peppol ID について次のことを説明しました。
- Peppol IDとは何か? いかなる目的で存在するのか?
- Peppol でドキュメントを送受信する際、IDはどのように用いるのか?
後編は「Peppol IDを登録するにはどうすればよいのか? 誰に依頼すればいいのか?」を解説します。
Peppol IDを登録 = SMPへの登録
ここでいう「登録」とは、Peppol ネットワーク内にご自身のID(法人番号など)を登録し、宛先として他社が使用可能な状態とすることです。取引先からデジタルインボイス等のドキュメント受け取りたければ、Peppol IDを登録しなければならないのです。
技術的観点から説明をするなら、「Peppol ネットワークにご自身の IDを登録する」ことは、「SMPにIDを登録する」ことを意味します。SMPとは、「Service Meta Publisher service」の略称で、これはPeppol ネットワークにおけるアドレス帳のようなものです。SMPに Peppol IDを登録することで、ドキュメントを世界中から受け取れるようになります。一方、ドキュメントの送信者は、このアドレス帳があるからこそ、相手先のIDが分かっていればドキュメントを送ることができるのです。
注意点ですが、SMPを実際に利用するのは Peppol のアクセスポイントです。つまりドキュメントの送信者がSMPで相手先のアドレスを調べたりするわけではありません。あなたが、Peppol でドキュメントの送受信を行いたいユーザーであれば、SMP の詳細を理解しておく必要はありません。SMPの存在を知らなくたって差し支えないです。
あなたがドキュメントの受取りサービスを開発するベンダーであるならば、そのサービスを介して、エンドユーザーの Peppol ID をSMPに登録しなければなりません。SMPに登録することで、サービスのエンドユーザーは初めてドキュメントを受信できるようになります。本稿では、どのようにしてユーザーのPeppol IDをSMPに登録するのか、その方法について説明します。よって、記事後編は主に開発者向けの内容となります。
なお、SMPの登録が必須となるのは、Peppol でドキュメントの受け取りたい場合だけです。つまりPeppol IDをSMPに登録しなくても、ドキュメントを送るだけであれば問題はありません。送信対象のドキュメントに、自身のPeppol ID(法人番号など)を記載すれば、それで送れてしまうのです。手紙の「差出人の氏名」は、送る人が好きなように名乗れますが、送信元のPeppol ID もこれと同様に任意の内容で記載できます。
しかし送信側が好き勝手に企業を名乗れるとしたら、それは問題になります。こういった事を防ぐためにも、アクセスポイント及びソフトウェアサービス・ベンダーは、「適切なKYC (Know your customer) の実施」を各国の Peppol Authorityより求められています。B2B ネットワークである以上ユーザーには相応の正当性が求められ、個人(事業者でない者)が気軽に使用できるものではないのです。
SMPへの登録について
SMPへのユーザーデータの登録は、アクセスポイントに依頼して行います。 依頼方法はアクセスポイントにより異なりますが、Peppol IDとして使用する法人番号等の番号、併せて企業情報(名称、住所、電話番号等)を提示しなければならない点は同じはずです。
登録の作業依頼は、エンドユーザーがアクセスポイントに対して行うものでなく、アクセスポイントとの契約主体が行うのが一般的です。すなわちソフトウェアベンダーが、エンドユーザーの代理で行うことが多いです。
登録作業は、送受信の主体となる企業ごとに一度きりのはずですが、アクセスポイントの乗り換える場合は、再登録が必要となります(後述します)。
SMP登録のユースケースは、アクセスポイントとの契約主体が (1) ソフトウェアベンダーか、(2) 事業者かによって異なります。
(1) ベンダーが アクセスポイントと契約している場合
これは、システムインテグレーター、あるいはSaaS・パッケージソフトのベンダーがアクセスポイントと契約している場合です。 ベンダーが主導してエンドユーザーのIDや、登録に必要な企業情報を集めます。そうしてアクセスポイントにIDの登録を依頼します。
(2) 事業者が直接アクセスポイントと契約している場合
デジタルインボイス等のドキュメントの送受信主体である事業者が、 アクセスポイントと直接契約している場合、自身でアクセスポイントに登録依頼をします。 自社主体でシステム開発やパッケージのカスタマイズをしていて、その中でPeppolを用いたドキュメント送受信機能を開発している場合がこのケースに当たります。
SMP、SMPとすでに繰り返し書いていますが、いずれの登録フローにおいても、ユーザーがSMPという言葉を耳にすることはないでしょう。 というのも、Peppol ネットワークのプロバイダーたるアクセスポイント(本記事を執筆している私たちのことです)が、SMPへの登録作業をサービスの裏側でやっているからです。
特にSaaS型サービスをご利用の場合は、エンドユーザーは、SMPのことを知らないまま Peppol を使用しています。 Peppol ネットワークのプロバイダーの存在(私たちアクセスポイントのこと)すら知らないかもしれません。 それで問題はありません。
SMPとは、DNSのような存在なのかもしれません。 多くの企業はホームページを持っていて、そのアドレスをDNSとうサービスに登録しています。 このDNSがあるからこそ、アドレスはアドレスとして機能するのです。 でもWebページを作成している人たちも、そのページを見る人たちも、DNSを意識しているかと言えば、そうではないはずです。 アドレスさえ把握していれば、そのホームページにアクセスできるはずです。 Peppolも、取引先のPeppol ID さえ把握していれば、その取引先がどのようなシステム、サービスを使っていたとしても、ドキュメントの交換を行うことができます。 つまりは、そういうことです。
アクセスポイントの乗り換えとは
「アクセスポイントの乗り換え」とは、アクセスポイントとの契約主体たるシステムインテグレーターやソフトウェアベンダーが、別のアクセスポイントと改めて契約し直すことです。 正確な喩えではありませんが、携帯電話のプロバイダーの乗り換えみたいに、Peppolのアクセスポイントを乗り換えるのです。 もちろん、そこまで気楽に行えることではないですし、Peppolを先行導入するヨーロッパでも一般的なことではありません。
企業が、デジタルインボイス等のドキュメント受領サービスを利用していた場合、サービスを別の製品に乗り換える際にも発生しうるイベントです。 新たに採用するサービスにおいて改めてSMPへのID登録が必要となるため、あらかじめ前のサービスでSMPに登録したPeppol IDを削除しておく必要があります。
SMPから Peppol IDを削除する
一度Peppol IDを登録したら、SMP のPeppol ID を削除をすることは、あまりないと思います。 とはいえ必要な時ももちろんあるので、ここで説明させていただきます。
Peppol IDの削除が必要となるのは、Peppol の使用をやめる場合と、アクセスポイントを乗り換える場合です。 ここでは、後者のユースケースを想定してご説明します。
まずは、エンドユーザーの視点からご説明します。 この作業が必要になるのは、たとえば SaaSのサービスを替える場合です。
必ず乗り換え前のベンダーにSMPに登録したPeppol ID を削除してもらう必要があります。 乗り換え先の新しいサービスで、前述のSMP登録が必要になり、もし乗り換え前の古いデータが残ってたら登録できないからです。 とはいえ、この作業はベンダーが適宜やるはずなので、わざわざ「SMPの削除をしてください」とベンダーに依頼することはないはずです。
なお、削除をするからといって、再登録時に Peppol IDの値が変わるわけではありません。 サービスの乗り換えが完了したら、取引先はそれまでと全くおなじように Peppol でドキュメント送ることができます。 「ドキュメントの受領サービスを別の製品に変更する」と、取引先に伝える必要もありません。
サービスベンダーの視点からすると、この削除作業は(残念ながら)ユーザーが解約されるときに行うべきものです。 アクセスポイントに対象ユーザーのPeppol IDの削除依頼をしなければなりません。 登録のときと同じくアクセスポイントごとに依頼の方法は異なります。
結局、どうすればいいの?
ここまで内容を踏まえ、どうすればいいのかを整理します。
(1) Peppolでドキュメントを送りたい
まずユーザーは、ご自身の Peppol IDを用意しましょう。 デジタルインボイスを送るには「法人番号」、「適格請求書発行事業者登録番号(以下、T登録番号)」のいずれかが必要です。 送信するにあたり、いずれの Peppol IDが必要となるか、その詳細は本記事の前編をご参照ください。 ドキュメントを送るだけなら、Peppol IDのSMPへの登録は必須でありません。
相手に送るには、送信先の企業の Peppol ID 、すなわち宛先のID を調べなければなりません。 一般的にPeppol IDは、相手先企業の法人番号、T登録番号のいずれかです。 2種類の ID 双方が必要というわけでなく、どちらかひとつがわかればOKです。 送信先が2つのIDを所有している場合、デジタルインボイス上に両IDを併記しても問題はありません。
(2) Peppol でドキュメントを受け取りたい
Peppol ネットワーク(SMP)に、Peppol IDを登録しましょう。 IDは一般的に法人番号で登録します。 マストではないですが、T登録番号もいっしょに Peppol ネットワークに登録してもいいかもしれません。 T登録番号だけを登録しても構わないでしょう。
Peppol IDの登録作業は、アクセスポイントに依頼して行います。 利用するドキュメント受信サービスのベンダーがアクセスポイントに依頼し、アクセスポイントが SMPに Peppol IDの登録を行います。 この作業の詳細は、ベンダーが裏方でやるものであり、エンドユーザーからすれば、アクセスポイントや SMPの存在を知ることはないかもしれません。
Peppol IDを見つけよう!
最後となりますが、取引先のPeppol IDを見つける方法を紹介します。
デジタルインボイス等のドキュメントを送るに当たって、相手の Peppol ID を知る必要があります。 取引先に Peppol IDを問い合わせることになりますが、Peppol Directoryというサイトを利用する方法もあります。 下記のサイトで企業名検索をすれば、Peppol 参加企業とその IDを確かめられます。
https://directory.peppol.eu/public
ここで取引先を見つけられれば、「Peppol でのドキュメント受領に対応している」もしくは「近々対応予定である」……と、完全には言い切れませんが、その見当はつきます。
ただし全ての参加企業がこの Peppol Dictory に 表示されるわけではありません。 表示させたくなければ、非公開にすることができるからです(Peppolを使用するにあたり非公開にするメリットは無いはずですが)。 Peppol は、相手にアドレスを伝えなくとも(問い合わせなくても)ドキュメントをやり取りすることも可能なのです。
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